段差解消機の修理


■トヨタ車体株式会社製の「おでかけスムーズ2」という段差解消機です。
 写真1)外観

 一見すると,別に不具合があるわけでもなさそうに見えます。 ところが,日ごろお使いになっているお客様が,「リフト面が傾く」,「駆動時に音がするときがある」とのお話。

 どれどれ,とリフトを上げて内部を確認すると,”シザース機構”が用いられています。パンタグラフ機構同様,機構部を薄型にできる構造です。

 写真2)内部構造

 この写真では,シザースリンクにつっかえ棒をして,リフト面を上げたままにしています。そのうえで駆動モータを下降運転して,リフト面を上昇させる仕事をしているローラの位置を確認しています。

 写真2’)

 印の部品がローラーになっており,印で示したシザース(ハサミ)の要に向かってローラーが進んでいくことで,リフト面が上がる仕組みです。 図にしますと下図のような感じです。

 図1)ハサミ
 ※ ハサミの絵はウィキペディアさんより頂きました。

 丸印のローラーをハサミの要に向けて進めると,ハサミが開いていきます。このときに,刃と環のところに板を載せておけば,リフト面が上がっていくという仕組みです。
 実際には,ハサミの刃にあたるところに,ローラとの接触角度を一定にするためのカーブを使用していたりして,工夫が凝らされています!


 再び写真2を見てみましょう。


 ハサミの機構を左右2丁使ってリフト面を持ち上げていますのがわかります。
 また,印のローラーが,左右で異なる高さにあることが判ります。このような状態になる(左右でローラーが進む速度が異なる)のでは,リフト面が傾くのも自然なことです。

 ちなみに,メーカー指定の良否判定基準では,この高さの差が30mm以上あるとN.G.で”要修理”だそうです。問題のあるこの装置では,35mmあったためN.G.です。


 なぜ,このようなローラ位置の違いが出るかというと,ローラを引っ張ったり戻したりしている”リニアアクチュエータ”という電動部品に由来しています。またまた写真2を出します。。。


 ハサミ1のローラ駆動にアクチュエータ1を使い,ハサミ2の駆動にアクチュエータ2を使っています。ローラの進む速度が違うということは,この電動アクチュエータ1と2の進む速度が違うと言うことです。
 で,このアクチュエータを動かしているモータはどのようなものかというと,”ブラシ付きDCモータ”なのです。
 通常,同期(連携動作)が求められる駆動部には,サーボモータやステッピングモータなどの制御モータが使われます。 DCモータでは,実回転数をカウントしながらの回転数制御が為されていなければ,同期運転は不可能です。

 この段差解消機に使われているモータは同期運転ができないものなので,多少の速度差は設計的に許容しているということです。
 このような設計思想から,トヨタ車体では速度がほぼ同じのアクチュエータを2本セットで出荷しているようで,仮に不具合でアクチュエータを交換する場合は2本とも交換するしかありません。

 で,結局この不具合をメーカー推奨の方法で修理をしようとした場合,電動アクチュエータを2本両方交換しなければならず,10万円〜の修理費用が掛かることになります。


 現在この段差解消機をお使いの方は,導入当初から異音やリフト面の傾きがあったと仰っていました。想像ですが,ひょっとしたら施工業者がアクチュエータの組合せを崩してしまったのかもしれません。

 この段差解消機はシンプルで安価な良い機構なのですが,かつて制御モータメーカーで仕事をしていた私としましては,メーカーさんにこの点だけは改善を要望したいです。
 公的給付で福祉用具を導入した方に,修理費の10万円を自費捻出していただくのは,あまりにも心苦しい話です。

 もんちゃんは,福祉用具を利用している方の利用・生活環境をできるだけ汲んで,できるだけ良い方法で福祉用具の維持・運用方法を提案したいと思っています。


■おまけ(モータに詳しい方だけ読んでくださいね!)

 上述のように,この段差解消機では電動アクチュエータにブラシ付きDCモータを使っています。(元々自動車用アクチュエータです。) 完全な同期運転ができないことから,メーカーさんも駆動速度が近い2軸をセットで出荷しています。
 では,使っているうちに直動アクチュエータの機構(すべりネジ)のフリクションが変化して,速度差が広がってきたらどうでしょう? 都度2軸を交換して10万円です。

 そこで,片方の軸を速度制御して2軸の速度をいつでも合わせられるように改造したらどうかと考えました。  モータの速度制御の方法には色々ありますが,DCモータですとアナログ方式とパルス幅変調方式(PWM)があります。

・まずはPWM回路の動作をパワーウィンドウ用モータで実験!



 安定化電源と汎用回路で実験すると,しっかり加減速できました。 アクチュエータは同じ自動車用DCモータなので,段差解消機でもきっと上手くいくかな?


・次に実際に段差解消機につけてみました。 


 部の1〜2端子間に,PWM回路を割り込ませます。 実験では上手くいったので,きっと上手くいく!と考えていましたが。。。



 結果は,モータが駆動しませんでした。 PWM制御回路には,十分に余裕を持ったものを選んだのですが,なぜでしょう。。。 どなたかご知見のある方,ご教示頂けますと幸いです。。。

 「少しでも安価な保守対策を提案したい!」と思って実験してみたのですが,今回は空振りに終わりました。  次に機会があれば,直接電圧を調整するアナログ方式でも実験してみようと思います。